Quantum GIS のマニュアルを改める
Quantum GIS の独習用マニュアルを書いてみて、1年ちょっと経過した。
昨年のマニュアルは、予備知識をできるだけ求めず、準備も要さず、ほぼ手ぶらの状態から GIS が覚えられるように、ということを中心に書いていた。これには理由があり、一日(6時間から7時間を想定)で話せる内容と、自分の話術のつたなさを考えた場合に、余計な前置きや準備をしている時間がないだろうと考えて、枝葉を刈り込んだのだった。
従って、インストールは実演なし(インストール済みのマシンで説明を開始する前提)、データもダウンロードや解凍、shape 変換などの実演なし(予め用意しておいたものを使う前提、ただしマニュアルを読んだ人が自力でデータを調達できなければならないので、全てダウンロードフリーのデータを使用する)、空間解析は私がまだ上手く説明できないのでやらないこととし、代わりにデータの編集方法を説明して終わり、という代物だった。
その上で、初心者が独習できるよう、マウスをほんの少し動かした際の画面の変化をいちいち画面イメージとして取り込み、「こういう操作をすればこうなる」については丁寧な解説を試みた。守備範囲は狭いが、その範囲内では分かりやすく書いたつもりであった。
しかしながら、GIS の GIS らしいところは全く説明できていなかった。何しろ、最初の方で「空間解析には言及しない」と宣言しているのである。初心者向けだから、を言い訳に開き直っていたのであった。
ともかく、自分の講義に何度か使ってみた。1回目はまあこんなものかなと思い、2回目はああ改良の余地があるなと思い、3回目は根本的に変えた方がよいのではないかと思い至った。で、そのことを twitter で少しつぶやいたところ、wata909 さんに見つかってしまい、こうして advent calendar に書く羽目になったのである。
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書き直すに当たって、前提条件はあまり変えていない。
初心者が読む前提とすること、まだ ver.1.6.0 Copiapo を使うことは、前回のままである。
Copiapo の使用を続ける理由であるが、私が作成するマニュアルは、それほど GIS に期待していないような行政官にも読んでもらうことを目指すので、資料が日本語でないとダメだと考えている。本当は ver.1.7 以降の方が機能的に優れる部分があるし、バグも一般的には減少する傾向にあるのだが、日本語の資料の多さを重視して ver.1.6.0 で説明を続けることにしたのである。ver.1.8 は日本語の取り扱いにバグがある点も気になった。
一方、昨年度版は簡単な地図編集(shape file の作成)ができれば終わり、というレベルだったが、さすがにこれでは学習意欲が湧きにくい。そこで今回は、地図や測量の知識を持たない人向けの用途を意識して、チェーン店のサイトにある店舗一覧のテーブルをコピーしてきて、それにジオコーディングを施し、shape の点レイヤに変換し、店舗分布図を作成することを目標に設定してみた。その際、背景地図は、基盤地図情報25000を使用し、最初から .qml と .qix を用意しておいて、見栄えを良くすることとした。この時点ではまだ空間解析に触れていないので、GIS の醍醐味を依然として解説していないことに代わりはないのであるが、そもそも GIS の初心者は空間解析なんかやらないし、概念も理解しないかもしれない。この点は、昨年同様割り切りである。実際に講義に使う場合も、2日目以降の課題になるので、時間が足りなければ(そして聞く側の予備知識が少なければ)空間解析は端折られることになるものと考える。
説明に要する時間も、昨年はあまり読めていなかったのだが(なんとなく一日分としていたのだが)、今回は丸二日掛けられる分量にまで増やすこととした。ただし、実際には一日で済ませなければならないことも多い。その場合は、後半及び枝葉に該当する部分を飛ばすことになる。
で、現時点では、以下のような章立てを考えてみた。(書いている途中で膨らんで大変なことになった・・・)
- インストール
- ver.1.6.0 の入手方法とインストール手順
- 立ち上げ直後のおまじない
- CRS の設定(おまじないとして。キチンとした CRS の解説は後ほど改めて)
- その他、オプションの設定など
- 表示例を見せ、簡単な操作を示す
- 背景地図の作り方(1)地球地図
- shape ファイルの読み込み
- 属性テーブルを眺める
- プロパティをいじって見栄えを変える
- 行政区域、行政区域界線、交通網のみのシンプルな図としてプロジェクトを保存する
- 背景地図の作り方(2)基盤地図情報25,000WMS
- 背景地図の作り方(3)基盤地図情報25,000ベクタ
- データのダウンロード
- 解凍、変換
- shape ファイルの読み込み
- プロパティをいじって見栄えを変える
- 空間インデックスを付与する(そのための小細工)→この小細工は枝葉の技術なので、時間がない場合は端折る。中味は 9/10 の eat-up の LT で話した内容である
- 背景地図の作り方(4)電子国土webタイル
- OpenLayers プラグインを取得する(ここでプラグインの概要を説明する)
- プラグインを改造する(プラグインの詳細な構造には触れない)
- 表示させてみる
- GPS 軌跡の読み込み
- ロガーの説明
- データのパソコンへの取り込み
- GPX ファイルの track point を読む)
- 表示の方法(手の込んだ変更を掛けたい場合は、一旦 shp に吐き出す)
- 写真の管理、地図上での管理
- 表形式データの管理、地図上での表示
- スーパーマーケットのサイト(一般的なサイトから適当に見繕う)
- 店舗一覧表を取得する(サイトから Excel にコピーする)
- 地理院のマップシートでジオコーディング(マップシートが Excel のマクロを使うので、現状 OpenOffice では実現できない)
- デリミテッドテキストレイヤへ変換
- プラグインで読み込む
- 表示の具合を見る
- 点タイプレイヤの作成
- 属性テーブルの設計
- 位置の入力
- 属性テーブルの拡張
- フィールド計算機について、余裕があれば触れる
- 線タイプレイヤの作成
- 属性テーブルの設計
- 位置の入力
- 途中でスクロール
- 属性テーブルの拡張
- 実習させる場合は、通勤経路を作成させてみる
- 面タイプレイヤの作成
- 属性テーブルの設計
- 位置の入力
- 途中でスクロール
- 属性テーブルの拡張
- 線タイフのレイヤと手法が殆ど変わらないことを示す
- 言い換えると、面としてのトポロジは(shape では)弱いことを示す
- ラスタの取扱、基礎
- CRS
- 地理座標系(経緯度の基準)の意味
- 投影座標系の意味と種類
- 暗黙裏に使用されている画面座標系
- ファイルの CRS、画面の CRS、自動変換
- GISに向いている座標系、向いていない座標系
- 疑似メルカトルの利用上の注意
- Tissot の指示楕円(時間的に余裕がある場合のみ)
- ベクタ解析(1)基本的な集合演算、位相演算
- バッファ(位相演算、図形の近傍)
- 共通部分の取得(集合演算)
- 差分の取得(集合演算)
- 合併の取得(集合演算)
- マルチポリゴン化(位相演算、連結でない図形の承認)
- 穴あきポリゴン(位相演算、単連結でない図形の承認)
- ベクタ解析(2)より進んだ演算
- 以下は詳しい理論には踏み込まず、概要を紹介するに留める。興味を持つ者のためには参考文献を紹介する。多分現実的には時間が足りない
- ボロノイ分割(位相演算、最近点分割)
- 単体分割(位相演算、TIN の発生)
- TIN を用いたスカラ場の補間、それによるラスタレイヤの発生
- 経路探索
- ベクトル場の表現と流路解析
- 参考になる話(難しすぎて参考にならないというツッコミはナシで)
最初の方は操作説明の要素が強いが、次第に概念を理解させる部分が増えていく。概念が理解できてから、初めて対応する操作を紹介することになるだろう(でないと、操作だけ示されても、使いこなせないことは確実であるから)。
それにしても、ベクタ解析の(2)までくると、これはもはや Quantum GIS マニュアルの守備範囲ではないような気もする。このレベルの概念の説明は、ワープロのマニュアルなのに修辞学が記載されているかのような話だもんね。