玄天黄地

学生時代、箸にも棒にも掛からなかったアホの子が、やっと普通のアホになれるか?

一流ということ

 羽生善治さんに関する本を二冊続けて読んだ。


 一冊目は、「どうして羽生さんだけが、そんなに強いんですか?」(梅田望夫著)。過去の観戦記(これだけでも秀逸)を題材に、さらに羽生名人の強さを掘り下げた書である。
 今、外から羽生名人を見た記事で、梅田さん以上に良いものを書ける人はいないと思う(勝又清和六段は対抗馬だが)。


 三浦弘行八段との名人戦第二局については、事前に観戦記を読んだ記憶がある。机上の研究に潜むリスクの話であったのだが、羽生名人は相手が研究してきている手順だと察知し、とっさに手を変え、相手が有利と読んだ局面の僅かの隙を突いて優勢に持ち込んだのだった。あの将棋は、一日目のさしかけ局面を見る限り、後手(三浦八段)優勢に見え、しかもアマ二段の私では先手側の防戦手段が何も浮かばないという恐ろしい局面だったので、今でも良く覚えている。研究の功罪という恐ろしいタイトルとともに。


 二冊目は、「結果を出し続けるために」(羽生善治著)。そう、羽生名人自身の著書である。講演会で話した内容に加筆したということだが、どうして強いのか、という問いに対する最も分かり易い答えがここにある。ツキを生かし、プレッシャーを生かし、ミスさえも生かす手段が書かれている。
 書かれているのは別に難しいことではない。どちらかと言えば簡単なことである。ただ、これを何十年も変わらずに続けることは途方もなく難しい。メンタルの強さが常人とは全く異なり、そしてそれを何とも思っていない羽生名人だからこそできることである。なにより「人は、普通に続けられることしか続けられない」とあるのが凄い。王座19連覇なんて「普通に続けられること」ではないのだが、羽生名人にかかれば「やるべきこと、続けるべきことが続けられているから、結果がついてきているだけ」とサラッと言いそうである。


 二冊読んだおかげで、外側から、そして、内側から、羽生名人の強さ、一流棋士でいることの本質に触れることができた。


 私も、少しでもあやかりたいところである。とりあえずは、「不利な局面でも諦めずに指す」からかな。