玄天黄地

学生時代、箸にも棒にも掛からなかったアホの子が、やっと普通のアホになれるか?

地面が動くと誰が GPS の位置を決めるか

まえがき

  • @vec2ras さん及び @niyalist さんと、
    • GPSで地上の位置を得ると言うが、GPSは自分の位置を承知していて、それを前提に受信機が位置を決めている。GPSの位置は、地上からの観測で決まる。では、地面が動くと誰がGPSの位置を決めるか。→ なぜ、プレートが常時動いているのに、政令は毎時改正しないのか。」
    • 「ちなみに、のせられて解説を途中まで書いていたのですが、このサイトを見せられてはとても無理。記事は削除されました。」
    • 「じゃあ土日に気力が保っておればということで。」
  • というやりとりをしたのでしたが、気力不十分につき、アウトラインだけ書いてお茶を濁すこととしました。
  • いつか、本当に気力がある時に、ちゃんとした文章に直します(ごめんなさい)。
  • とりあえず、少しだけ加筆しました(4/15)
  • 思わぬ誤解を受けたようなので、さらに少しだけ加筆しました(5/13)
    • 本論とは関係ない話なので、もしも今後誤解が解ける場面があれば、今回加筆した部分は削除することもあります。
      • あっ、そうか。冒頭の「毎時改正しない」を「今後も改正しない」と誤解されたのかな?
      • 今回の地震に伴っては改正するだろうけど、平時は(プレートは平時でも動いているけど)改正しない、という意味なんですけどね。

GPS の原理

  • 衛星は自分の位置と精密な現在時刻を知っている(予め教え込まれている)
  • 受信機は、衛星からの電波を受けて、到達時刻の差から、衛星と自分との距離を知る。
    • これだけだと、衛星を中心に、半径が衛星と受信機との距離に等しい球面上のどこかにいることしか解らない
  • 衛星を3つ使うと、理論上は受信機の位置が一意的に解るはず
    • 実際は、衛星と受信機の時計の時差も未知数なので、衛星は同時に4つ観測することが必要
    • 電離層による遅延、大気中の水蒸気による遅延は、ここでは無視する
  • 衛星の位置は、地上局が教える
    • 衛星の位置は、理論値から次第にずれていく
      • 衛星の位置を示す微分方程式は、解析的に解けないことが証明されている
      • 数値解析で近似的に解いた場合、時間の経過とともに誤差が累積していく
    • 予め位置の解っている地点で衛星を観測して、逆に衛星の(より正確な)位置を決定する
    • 普通の測位用には、定期的に衛星に位置を教え直している
    • 測量目的だと、全ての時刻において高い精度で軌道を決定し直している
    • これで、より高い精度で測量ができる(測量目的でなければ、こんなことは不要)

測位と測量

  • 受信機の絶対位置を求めるのが測位
  • 2つの受信機の相対位置を求めるのが測量
    • 測量原点という「不動点」がある。
    • 不動点との相対位置を求めることで、絶対位置がわかる。
    • 測量目的の場合は、衛星の搬送波の位相差を利用している
    • 二周波の搬送波を見れば、電離層による遅延もも補正できる

不動点は誰が決める

  • 不動点は最初から絶対位置が解っていたわけではない
  • 繰り返し観測を行い、位置決め精度を上げていく
  • 十分に位置決め精度が上がった時点で、繰り返し観測を打ち切り、得られた座標値を「真の絶対位置」として不動点の座標に採用する

不動点は動かない?

  • 不動点も地表にあるから、プレート運動で動く
    • もっと言うと、地球は弾性体なので、回転速度すら一様ではない(経度が時間変化を起こす)
    • 回転軸も一様ではない(けど、それを言い出すときりがない)
  • みんなが同じプレートに乗っている場合は、近似的に平行移動と考えて良い
  • だったら、不動点の座標を変えない方が便利
    • 任意の地点で、不動点との相対位置が近似的に不変なのだから
    • その地点の絶対座標も変わっていないことにする方が便利

地殻変動を調べる(平時)

  • なるべく地殻変動の影響を受けないような場所を不動点に定めるのが良い
  • 長期の観測で、そのような場所は事前に分かっていることが多い
  • 日本の場合は、4つのプレートにまたがっているから厄介だが
  • 東海地震の影響を最も心配する立場だと、北米プレート上に不動点を置くのがよかった(この場合の不動点は、測量の原点ではないが、一連の観測における原点の扱い)
    • だから青森県に置いていたものと推測

地殻変動を調べる(地震発生時)

地殻変動が起きた場所の座標

  • 地殻変動が起きると、相対位置が変わる
    • 相対位置が変わった地域では、どの点を出発点として測量するかで、結果が変わる
    • それは非常に問題が大きい
  • なので、現地の基準点の位置を大規模に修正する
  • それまでの測量は?
    • 既知点の座標が動くことを承知していれば、行って良い
    • 後で、新しい既知点の座標に基づいて位置を計算し直す必要はあるけどね

測量の原点はどうなる

  • 測量の原点を動かすと、全ての位置が変わる
    • 全ての位置は、測量の原点との相対位置で定まっているから
  • だから、できるだけ原点は動かさない方が良い
    1. 測位の精度が測量精度よりも十分低い間は
    2. 大きな地殻変動が原点の近くで起きていない間は
  • 今回は原点付近も地殻変動の範囲に入ってしまった
    • 条件2が成立しなくなった
  • どうするんでしょうね
    • 政令改正という行政手続きもありますが
    • 新しい原点数値を定めるにはかなり大規模な観測が必要になります
    • これを機に原点を動かすかなんて議論はないのかな

測量の原点が変わると?(5/13 追記)

  • 新たに行う測量は、新しい原点の値に基づいて行うことになる
  • 過去の測量の結果も、変える必要が生じる場合あり
    • 数年がかりで測量をしている場合、新旧の整合を取る為には、過去の測量結果を新しい原点の値に基づく値に変換しなければならない
      • 発注した人の仕事になる(道路管理者だったり、用地取得を目指している機関だったり・・・・)
    • 過去の山歩きで取得したGPSログの値も、必要ならば変える必要がある(新しい地図には合わなくなるから)
    • 法令で定められている指定範囲も変わる可能性大
      • 測量と関係ない分野でも、指定範囲を経緯度で定めている法令って結構ある。それらの法令を所管しているのは、もちろん、国土地理院ではない。
  • 測量業者さんは喜んで仕事を受けると思われます。

余効変動(6/5追記)

  • 地震が発生した時に大きく地面は動きますが、実はその後も地面は動いています。
    • これを余効変動と言います。
    • 今回の地震では、5/31 に国土地理院が行った記者発表によれば、数十cm程度の余効変動を観測した場所が多数あるようです。
  • 余効変動が発生すると、エネルギーが解放されるので、その分余震が減ります。
    • これだけで、M8の地震1回分のエネルギーを解放したらしいですね。
    • M8の余震が起きるかも、と報道されたのに起きないのは、こういうことも関係しているかも知れません。
  • 大きな余震が起きないのは結構なことですが、地面が動いているので、基準点の新しい値がなかなか出せなかったようですね。
    • 5/31 の記者発表は、「やっと余効変動が小さくなってきたので、このあたりで電子基準点の新しい値を出してしまいます」ということのようです。
    • その他の基準点(三角点など)は、電子基準点の新しい座標値を元に、これから10月まで掛けて新しい値を測量(あるいは計算)し直すようです。

5/11、5/12、5/13 追記 → 6/5 縮小

  • trackback を頂きました。私の記事にどういうコメントを付すかは評者の自由ですので、dis る権利も認めております。
  • 事実誤認はあると思っていますが、それでも,この方が私を dis る権利は保障したいです。評者はそれなりの予備知識をお持ちのようですから、そろそろ誤解を解いてくださると有り難いですが・・・