玄天黄地

学生時代、箸にも棒にも掛からなかったアホの子が、やっと普通のアホになれるか?

収束と位相[回想]

 アホ歴史の第二回、位相空間よりも先に(解析学の入門以前として)習うのが、数列の収束である。


 え? 数列の収束は高校で習うでって? そうなんですけど、絶対収束とか無条件収束とか、そういうバリエーションは習わないですよね。1年生の4月は、「普通の数空間では、Cauchy 列は収束する」がちゃんと分かるだけでもまあ前進と言えるんではないか、などとレベルの低いことを考える私である。


 数空間(実数の空間)は性質の良い空間であるから、Cauchy 列はもちろん収束する。Cauchy 列が収束するような空間を「完備である」と言うが、よく知られているように、有理数は完備ではない。
 例は(数学科の学生なら)簡単で、


 3.14,
 3.1415,
 3.141592,
 3.14159265,
 3.1415926535,


 というような数列を考えてみればよい。これは有限小数であるから、もちろん有理数の数列である。そして、この数列は Cauchy 列であり、πに収束するだろうと予測がつく。しかし、極限値πは有理数ではない。


 ここまでだとなんてことはないが、連続関数全体の集合とか、n回連続微分可能な関数全体の集合とかも完備ではない(その前に、ノルムを導入しなければならないが)。
 n回連続微分可能な関数全体の集合なんかは、直感的には、n階微分方程式における解の候補の集合であり、工学的には適当な近似値を初期値として、適当な漸近式で次第に近似精度が高くなるような列を見いだせば、その極限値が解になりそうな気がするものであるが、困ったことに極限値は必ずしも微分可能とは限らない。
 これも、例は簡単で、

fn(x)=xn , x ∈ [0,1]

 という関数列を考えれば、各 fn(x) は無限回微分可能であるが、極限関数は x=1 で連続ですらない。

 こういうことが分かっていないと、関数列の収束性などという概念が頭の中で落ち着かない。各点収束、一様収束、絶対一様収束あたりまでは、低年次の初歩解析学で習いそうであるが、測度収束、Lp収束、ノルム収束、弱収束、汎弱収束(*-弱収束)となってくると、どれが強くてどれが弱いのかも含めて頭が混乱してくる。


 収束の仕方まで考えて関数空間(関数を元に持つような集合属)を考えると、線形性だけでなく、位相が気になる。しかし、普通の学生は関数空間を線形位相空間として眺める前に卒業してしまうような気がする。少なくとも、自分が学んだゼミ(の教科書)では、線形位相空間という言葉は出てこなかった。超関数を導入しようと考えなければ不要な概念だからかも知れない。ちなみに、私は超関数については論理体系としては何も理解していない。いくつかの基本的な性質を証明抜きに知っているに過ぎない。