玄天黄地

学生時代、箸にも棒にも掛からなかったアホの子が、やっと普通のアホになれるか?

Fourier 級数(回想)

 アホ歴史の第四回、Fourier 級数である。


 初めてフーリエ級数という言葉を知ったのは高校3年生のとき、Z会の旬報で大学の数学に関する解説的な読み物においてである。当然、理屈は分からず、単に任意の波が様々な正弦波の和で書ける、という結果のみを頭に入れただけであった。(ここで、「当然」と書くあたりがorzではある)


 大学の2年時に物理学(波動力学)でも Fourier 級数は登場するが、そこでは重ね合わせるべき波の波長が決まっている(ある波長λと任意の整数nについて、λ/nで表される波長になる)。これではただの物理学のエピソードに過ぎない。
 また、物理学であるから、高調波の無限和が収束するかどうかはあまり気にしない。実際のシンセサイザーなどは生成できる波の周波数に上限があり、人間の耳に聞き取れる音の周波数にも上限があるから、それよりも高い周波数の波は「近似を打ち切って良い」レベルの波である、「十分原音を良く近似しているので、このままさらに高調波を足していけば、原音を完全に再現する」と証明ナシに書かれて終わりである。


 数学科で函数解析を勉強すると、景色は一変する。線形代数(有限次元の線形空間)では、任意のベクトルは、有限個の一次独立なベクトル(つまり基底だ)の線形和で書けるが、無限次元の線形空間であっても(適当な条件を満たせば:たとえば Hilbert空間であることは十分条件)任意のベクトルが基底の無限和で書けるわけだ。これが Fourier 級数の本当の姿である。
 もちろん、無限次元の線形空間において、基底が存在するのか、基底の無限線形和が収束するのか、収束したものが元のベクトルと一致しているのかどうかなどは、いちいち確認(証明)が必要である。教養の物理は、このあたりの確認を「してあるもの」と仮定しているのである。


 こういうことが分かるようになって、初めて解析学線形代数学が結びついてくれる。いや、積分演算は線形性があるのだから、ルベーグ積分を学んだ際に気づいてもおかしくない(決して早くない)のであるが、Fourier級数は計量線形空間(無限次元の場合は、ノルムや内積の定義された函数空間であって、完備であるもの。これが Hilbert空間)でなければならないので、理解がワンテンポ遅れるのであった。


 自分は、大学院に行けるだけの能力がなく(努力を怠っていて)、一旦民間企業に就職したのだが、3年後に思い切って会社を辞めて大学院を受け直したことがある。と言っても、理学部数学科は絶対に合格できないので、工学部の数理工学科というところを受けた。数学の問題で、上半平面で正則な函数に関する問題が出て、なんとか4年前の函数解析の教科書を思い出して解くことができたが、最終日の面接で「数学の成績はとても良かったね」と言われて驚いたものである。現役の学生の時は間違いなくアホだったのだが、アホなりに(数学と関係ない仕事場でも)時々思い返していると、理解が進むこともあるんだな、と。
 それも、このレベルの函数解析が線形性さえ分かっていれば何とかなるからなのであったのだが。