玄天黄地

学生時代、箸にも棒にも掛からなかったアホの子が、やっと普通のアホになれるか?

ベルト・プリミティブ(再々)

昨日 3/13 の記事で、地図投影を前提とした3次元空間を定式化した。

数学的には何も新しい話はないが、直交3次元座標(人工衛星の軌道計算に使う)ではなく、回転楕円体面またはジオイド面を基本の二次元多様体として、それを直交三次元空間に埋め込み、二次元多様体の近傍のみの領域(三次元空間を位相空間と見た場合の部分位相空間)を基本二次元多様体と法ベクトルだと見なすこととしたのである。

基本の二次元多様体ジオイド面とした場合、地表面の単連結な成分(ただしオーバーハングの崖部分など特殊な地形は除く)はベクトルバンドルで基本の二次元多様体に射影可能であり、地表面の単連結成分は、ベクトルバンドルの切断を射影成分に限定したものとして得られる。地表面上の任意の一点 x に対して、その近傍をベクトルバンドルによって局所自明化して得られる三次元空間は、水平面+鉛直線で構成されるという意味で、自然な三次元空間であるが、この三次元空間の座標軸はあくまで局所的なものでしかない。秋田(東経140度)と明石(東経135度)とでは、鉛直線は経度方向だけでも5度ずれているのである。

 

ーーーー

 

さて、この前提条件で、再度、ベルト・プリミティブの定式化を行う。

★仮定条件

・道路面(以下 R2 と書くこととする)は、縁のある二次元の可微分多様体として捉える。すなわち、道路縁となる連続(局所的には可微分)な曲線があり、路面は十分なめらかである(道路面上の任意の点の近傍は可微分である)とモデル化する。
・ネットワークとしての道路(以下 R1 と書くこととする)は、一次元複体として捉えることでも良いが、道路面の部分多様体としての構造を持たせたいので、なめらかさを持たせることとし、一次元可微分多様体とする。実際の自動車の走行経路(軌跡)も、停止してハンドルを切り返したりしない限り可微分な経路となるので、無理な仮定ではない。

・この一次元多様体 R1 は、二次元多様体 R2 に埋め込まれているものとする。つまり、位相空間としては部分位相空間である。道路なので、2つの多様体の連結性は同値である(べきである)。

 

★二次元多様体内の法バンドル

 二次元多様体 R2 に埋め込まれた R1 は、R2 内で法バンドルを考えることができる。 イメージとしては、幅が必ずしも一様でない、また、まっすぐとは限らない紙テープがあって、そのどこかになめらかな線が引かれているとき、紙テープの範囲内でその線の垂線を無数に引くことができる、という感じである。この紙テープが車線、テープ内のなめらかな線が自動車の走行経路というイメージで考える。法バンドルは、走行中の自動車から進行方向直角に左右を見たときの視線方向だと思えば良い。

 測量系の人には、別のわかりやすいイメージがある。道路を自動車で走る場合の経路を一次元多様体 R1 だとすると、車載レーザー装置で取得できる道路面が R2 なのである。車載レーザ装置は自動車に固定されているので、レーザビームの飛ぶ方向は自動車の進行方向から見ると一定の角度をなす。それが直角だと思えば、レーザービームがそのまま法ベクトルバンドルになる。

 R1 を一次元複体としてみた場合の交差点の近傍では、 R2 の点は少なくとも2通りの射影が存在しうるが、これは、2本のテープが交差していて、交差部分が糊付けられているものとして考える。数学的には、接着写像で同一視している、ということになる。

 さきほどの MMS で考えると、交差点では MMS 車は二回通過する。(例えば、一回目は西から東行きに、二回目は南から北行きに)。交差点の近傍だけは、二度、レーザビームを浴びる訳だが、その部分が接着写像で同一視される範囲だということになる。

 この場合、路面がカーブでバンクしている(進行方向と直角な方向には、カーブの内側が低くなるように傾いている)ことは、法バンドルの発生に影響しない。そもそも二次元多様体 R2 が傾いているかどうかは、R2 単体では言及できない。

 

★三次元多様体への埋め込み

 さて、この R2 を πA:E → SA または πB:E → SB に埋め込む。

 R2 は、一般的には、SA にも SB にも含まれないが、射影 πA や  πB により SA や SB に投影することができる。これは、測量学的には、3次元地物の図化だと考えることができる。

 3次元空間に埋め込む理由は、①立体交差が再現される、②二次元道路 R2 のバンクが明示される、③一次元道路 R1 の走行経路勾配が明示される、などの利点を考えてのものであるが、④路面の横断方向( R2  内の R1 の法バンドルの方向)を SB に投影することで水平方向に変換できることが大きい。バンクの影響を消去できるのである。

 厳密には、らせん状の道路(バンクしながら上昇しているような道路)では、投影面上では R1 の接ベクトルと法ベクトル( R2 内での)の直交性は微妙に失われるのだが、 R1 の勾配が急でなければ、直交性は実用上は保たれると考えても差し支えない。

 なお、数学的な法バンドルは、直交性のような計量の概念は使わず、 R1 の各点において R2 としての接平面を考えた場合において、R1 の接ベクトルの商集合を考えることで実現している。

 

★ベルト・プリミティブ

 R1 の部分集合で、区間( 0, 1 )と同相なもの Q1 を取るとき、R1 の法ベクトルバンドルをその部分集合上に制限したもの Q2 は、長方形と同相である。これがベルト・プリミティブである。

 交差点の近傍では、 Q1a と Q1b が一点 P で接着写像により同一視されているものとして考えることができる。すると、法ベクトルバンドル Q2a と Q2b は P の近傍で接着写像により同一視されているものとして扱うことができる。二次元的に同一視した範囲が実際の交差点内に相当し、交通信号機等を用いて交通制御を行わなければ事故になる場所となる。

 

 かなり荒削りな表現でしかないが、二次元道路図形を、現実に即しつつ、ISO19107などにも矛盾しないようなレベルの数学的もでるとして記述することができた(と思う)。ISO19107 自体も理解はそれほど容易ではないが、あれに新しい概念を追加することなく(法バンドルも、接バンドルと商集合から導ける)記述できることが期待できる。

 ここまでは、数学的には新しい話は何一つないが、道路に限らず二次元地物をネットワークに注目した一次元多様体として見る場合と幅まで考慮した二次元多様体としてみる場合の橋渡しができるのではないかと考える。